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37バンソウコ。

(米好きな英雄を語ってみる)
2025
04,24

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2009
12,06
アメリカはイギリスの肩にぱたりともたれかかった。
それはあまりに露骨で唐突で、イギリスは一瞬驚いたように身体を強張らせたが、アメリカが悪意なくやっていることだと認めたのか、それとも関心がなかったのたか、特にそれについてコメントすることもなく、まるで何事もなかったかのようにぴかぴか光るビデオに意識を戻した。
皮肉と悪態――若しくは懐古の言葉たちが――ポテトの塩のようにばらばらと振りかけられるのを期待していたアメリカは、些か予想外の態度に動揺している。

それは突然に必然に、なんの前触れもなくアメリカを襲ったのだ。




大西洋を横切って「かつての」兄(そう思っているのは彼だけで、もうそのような繋がりはは無いとアメリカは信じている)が住んでいる小さな島に足をのばしてみると、アポ無しの訪問をこの「兄」は案の定喜ばなかった。
「このクソ忙しいときに……なにしにきたんだよ」
「君の顔をみにきたんだよ、イギリス」
一度横を向いて舌打ちした後、「入れよ」とぶっきらぼうに扉を押すその耳が赤いことをアメリカは知っていた。

ニュー・ヨークは紛れもなく休日で雑多な雑音に雑踏に包まれている。


手際よくカップとソーサーがテーブルの上に並び、こぽこぽと気持ちの良い音をたてて紅茶が注がれている。その音がもう一度聞きたくて、まだ手渡されていないそれを一気に飲み干すと、黙ってソーサーを押しやる。
「喉が渇いているのか?」
イギリスは呆れたように注ぎ足した。こぽこぽ。「君の入れた紅茶が、とても美味しかったのさ」。今度は彼は訝しげにアメリカを見た。

そしていつもと違い今日は、言い争いが無い代わりに会話もなく、二人とも無言でスコーンを平らげると手持ちぶさたになった。無意味な時間が暫く過ぎて、イギリスは立ち上がるとビデオデッキにテープを入れた。がちゃり。そしてテレビの前のソファーにどっかりと座ると、手で自分の隣を指す。
「俺が観たいんだ。付き合ってくれよ」
そしてビデオが始まった。
アメリカはぼんやりと画面を見ていた。映像を目が追いかけるだけで、内容は頭に入って来なかった。が、それがイギリスではなくて自国で――アメリカで作られたものだと気づいたとき、それは突然に必然に、なんの前触れもなくアメリカを襲ったのだ。

ばたり、とイギリスの肩に頭をのせた。イギリスは何も言わない。イギリスの息づかいが近くにあり、アメリカは何かにみぞおちのあたりを捕まれたような気がした。そして何故か鼻の奥が苦しくなった。

「――なあ、こないだの世界会議だが――」
イギリスは他人事のように、あくまで画面を観ながら呟く。
「――皆反対したが――俺はお前の意見、悪くなかったと思うぞ」
鼻の奥の苦しさが喉をに押し込められ、それに今度こそ耐えきれなくなった。それがどこから来るのかわからなかったし、イギリスが何を言わんとしているのかもわからなかった。しかし、イギリスがかつてと同じように自分のことを理解して、そして理解しようとしていることは伝わったのだ。
アメリカはぽろぽろと涙を溢していた。



(アメリカン・ヒーローの憂鬱)
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